CT装置とレンズが同時受賞、キヤノンが示すデザイン力

CT装置とレンズが同時受賞、キヤノンが示すデザイン力のイメージ

ニュースの概要

アジア太平洋地域のデザインを顕彰するDFAアジアデザイン賞の2026年版で、キヤノングループの二つの製品が上位に選ばれた。全身用X線CT診断装置「Aquilion Rise」は最高位の大賞を受け、ミラーレスカメラ用のRFレンズ「F1.4 L VCMシリーズ」は金賞を得た。片や病院で患者を迎える大型の医療機器、片や写真家が手に持つ小型の光学機器である。使う人も場所も大きく異なる二つの製品が、同じ年に同じ賞で評価された点が目を引く。見た目の美しさだけでなく、使う人の負担を減らす設計が評価の中心にあったとみられる。

引用元: 「DFAアジアデザイン賞2026」にて全身用X線CT診断装置「Aquilion Rise」が大賞およびミラーレスカメラ用RFレンズ「F1.4 L VCMシリーズ」が金賞を受賞(Canon Global)

分析・見解

医療機器が大賞を取ったことの意味

デザイン賞と聞くと、家電や家具、スマートフォンのような身近な製品を思い浮かべる人が多い。その中で、病院に置かれるCT装置が最高位を得た。これは珍しい出来事である。

CT装置は患者にとって、恐怖や緊張を呼びやすい機械だ。大きな円筒の中に入り、動かずに待つ時間は短くても心細い。そこで検査室の空気をやわらげる形や色、音、手順の分かりやすさが、医療の質そのものに関わってくる。デザインが「飾り」から「治療環境の一部」へ位置づけ直されたと読める。

患者と技師の両方に効く設計

CT検査では、患者の不安だけでなく、操作する技師の負担も大きい。日々、多くの患者を同じ手順でさばくため、わずかな手間の差が一日の疲れに積み上がる。ボタンの配置、画面の見やすさ、患者の寝台を動かす手間などが改善されれば、検査の待ち時間も短くなる。

日本では人口あたりのCT設置台数が世界でも多く、その分、現場の稼働率も高い。使う人の動きに寄り添う設計は、病院の経営にも直結する。見た目の評価と現場の効率が、ここでは同じ方向を向いている。

明るいレンズを小さく作る難しさ

もう一方の「F1.4 L VCMシリーズ」は、開放F値1.4という明るいレンズ群である。F値が小さいほど多くの光を取り込め、暗い場所でも速いシャッターで撮れ、背景も大きくぼかせる。ただし、明るいレンズは大きく重くなりやすい。

重いレンズは長時間の撮影で手首や肩を疲れさせる。VCMと呼ばれる駆動方式(=ピント合わせの部品を静かに素早く動かす仕組み)を採り入れ、ピント合わせの速さと静けさを両立させている点が特徴だ。写真だけでなく動画撮影も増えた今、駆動音が小さいことは大きな価値になる。

二つの受賞に共通する設計思想

医療と写真は遠い分野に見える。しかし共通点がある。どちらも「使う人が機械を意識せずに済む状態」を目指している点だ。患者は検査に集中せず落ち着いていたいし、写真家は被写体だけを見ていたい。

独自の視点として注目したいのは、キヤノンが医療と映像という二つの柱を持つことの強みである。光や画像を精密に扱う技術と、人の手に触れる道具を磨く経験が、互いの設計に染み出している可能性がある。複数の事業を持つ企業が、分野をまたいで同じ設計の考え方を使う。その成果が、同じ年の受賞という形で表に出たとも言える。

ビジネスへの影響

デザインを後付けにしない開発体制

この受賞から企業が学べるのは、デザインを最後の仕上げ工程にしない姿勢である。企画の段階から、使う人の動きや感情を観察して設計に反映する。これは大企業に限らない。中小企業の製品やサービスでも、現場の声を最初に集めるだけで、使いにくさの多くは防げる。

たとえば自社の業務システムを作る場合でも、画面の見た目より先に、担当者の一日の動きを観察することから始めたい。使う人の手間を一つ減らすたびに、研修費や問い合わせ対応の費用が下がる。

賞を営業と採用の材料にする方法

国際的なデザイン賞の受賞は、取引先への信頼材料になる。特に医療機器のように、導入判断に時間がかかる商品では、第三者の評価が稟議を後押しする。自社が賞を狙えなくても、取引先の受賞情報を調べておくと、提案の切り口が見つかる。

また、採用面でも効果がある。設計者や技術者にとって、自分の仕事が社会に認められる職場は魅力が高い。賞の受賞実績を、技術者向けの採用ページで具体的な開発話とセットで伝えると、応募の質が変わる。

複数事業の知見を持ち寄る仕組みづくり

事業が複数ある企業は、部門をまたぐ勉強会や設計レビューを設けるとよい。医療部門の安全設計の考え方を、民生品の品質管理に取り入れる、といった交流である。小さな組織でも、異なる業務の担当者同士で失敗事例を共有すれば、同じ効果が得られる。受賞の背景にある知恵は、仕組みとして真似できる。

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